大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和44(あ)2105 判決

主 文

原判決を破棄する。

本件を仙台高等裁判所に差し戻す。

理 由

弁護人渡辺良夫の上告趣意第一点および第二点は、いずれも判例違反をいうので

あるが、原判決は訴因変更の要否の基準についてなんらの法律判断をも示していな

いのであり、所論引用の各判例に違反する法律判断を示したものでないことが明ら

かであるから、所論の前提を欠き、適法な上告理由にあたらない。同上告趣意第三

点は、単なる法令違反、事実誤認の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。

しかしながら、所論にかんがみ、職権により調査すると、記録によれば、本件起

訴状記載の公訴事実については、第一審の第一三回公判期日において訴因の変更が

なされているのであり、その変更後の訴因の大要は、被告人は、自動車運転の業務

に従事していたものであるところ、昭和三九年八月一一日午前零時すぎころ、東田

川郡a町b飲食店A前から自動三輪車を運転して帰宅しようとしたものであるが、

被告人としては当時酒の酔いが廻つて注意力が散漫になつたのであるから、酔いが

さめるまで運転を断念して危険の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務がある

に拘らずこれを怠つて運転を開始し、右Aからc村d方面に向かつて進行し、同日

午前零時二五分ごろa町e字f地内道路にさしかかつた際、的確な前方注視ができ

ないまま漫然進行した過失により、進路上に伏臥しているBに気付かず、右自動三

輪車の前輪で同人の胸腹部の背部を轢過し、よつて胸骨肋骨骨折、腹膜裂傷等の傷

害を負わせ、同人をしてそのころ同所において死亡するに至らせた、というもので

ある。そして第一審判決は、右の訴因につき、「被告人は、自動車運転の業務に従

事していたものであるところ、昭和三九年八月一一日午前零時すぎころ、自動三輪

車を運転してa町bからc村d方面に向かい進行し、同日午前零時二五分ごろa町

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e字f地内にさしかかつたのであるが、およそ自動車運転手たる者は、常に前方を

注視して人車の有無などを確かめたうえ、適宜の措置をとつて進行し、もつて事故

の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに、右義務を怠り漫然と進行

したため、同所道路左側に自転車を立てその脇付近の道路上に伏臥していたBに気

付かず、至近の地点まで接近して始めてこれを発見し、急停車の措置を講じたが間

に合わず、同自転車を突き倒すと共に自車の前輪を同人の胸腹部の背部に乗り上げ

てこれを轢過し、よつて胸骨肋骨骨折、腹膜裂傷等の傷害を負わせ、同人をそのこ

ろ同所で死亡するに至らしめた。」旨の認定をし、被告人を有罪としたのである。

しかるに、原判決は、被告人側の控訴趣意のうち、量刑不当の論旨を理由ありと

して第一審判決を破棄したのであるが、さらに刑訴法四〇〇条但書によつてみずか

ら次のように罪となるべき事実を認定判示した。すなわち、その大要は、被告人は

自動車運転の業務に従事していたものであるところ、昭和三九年八月一一日午前零

時すぎごろ、自動三輪車を運転して、a町b地内よりc村d方面に向かい進行し、

同日午前零時二五分ごろ、a町e字f地内にさしかかつた際、進路前方路上左側に

自転車を立ててその脇付近の道路上に酔つて仰臥していたBを発見し、同人の手前

に一旦停車し、下車して同人を道路左端に移した上、再び発進したが、かかる場合

自動車運転者としては、同人の動静に注意しその側方を通過するも危険のないこと

を確認するため前方を注視して事故発生を未然に防止すべき義務があるのに、これ

を怠り漫然道路右側の堰に注意を奪われ前方を確認することなく進行を開始したた

め、同人が再び道路中央辺に身体を移動させて伏臥したのに気付かず、同自転車に

接触してこれを倒すと共に自車の前輪を同人の胸腹部の背部に乗り上げてこれを轢

過し、因つて同人に対し胸骨肋骨骨折、腹膜裂傷等の傷害を負わせ、同人を間もな

く同所で死亡するに至らしめた、というものである。

右原判決の認定事実と前記変更後の訴因とを対比すると、訴因に示された被告人

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の過失は、酒に酔い注意力が散漫になつたのであるから運転を断念すべきであるの

に自車の運転を開始し、的確な前方注視ができないまま漫然進行した過失であると

されているのに対し、原判決の判示した被告人の過失は、自車を運転進行中、路上

に仰臥していた被害者を発見して一旦停止し、下車して同人を道路左端に移し再び

発進した際、右被害者の動静に注意し前方を注視しながら進行することを怠つた過

失であるとされているのであるから、両者は明らかに過失の態様を異にするという

べきである。このように、訴因として示された態様の過失とは異なる態様の過失を

認定するには、被告人に防禦の機会を与えるため訴因の変更手続をとる必要がある

といわなければならない。原審が右の手続をとならいで前記の認定をし被告人を有

罪としたのは違法であり、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであつて、

これを破棄しなければ著るしく正義に反するものというべきである。

よつて、刑訴法四一一条一号により原判決を破棄し、同法四一三条本文により本

件を仙台高等裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり

判決する。

検察官蒲原大輔 公判出席

昭和四六年一一月二六日

最高裁判所第二小法廷

裁判長裁判官 小 川 信 雄

裁判官 色 川 幸 太 郎

裁判官 村 上 朝 一

裁判官 岡 原 昌 男

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